源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
夏の夜の夢・あらし
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夏の夜の夢・あらし

ウィリアム・シェイクスピア【著】
福田恆存【訳】
新潮社(新潮文庫)刊
1971(昭和46)年7月発行
2003(平成15)年10月改版

沙翁喜劇の代表作の一つといはれる『夏の夜の夢』と、最後の浪漫喜劇『あらし』をカップリングした、お徳用の一冊であります。

『夏の夜の夢』は、執筆時期としては「喜劇時代」の幕開けくらゐですかな。それまでの、例へば『じゃじゃ馬ならし』のごとき写実的な、いかにも喜劇喜劇したものとは一線を画してゐます。妖精も出るしね。
わたくしは沙翁劇に於ける「道化」が大好きなのですが、それに劣らず「妖精」も熱愛してゐます。本作ではパックといふ「茶目な妖精」が登場します。しかし彼は命令された人物とは(誤つて)別人に惚れ薬を塗つたりして、騒動を起こすのであります。
そして殿様の結婚を祝つて、無学だが人間味たつぷりの愛すべき職人たちが披露する芝居が面白い。オルガン修理屋、大工、仕立て屋などが、観客に気を遣ひすぎて却つて訳の分からないドタバタ劇になつてゐます。「たまたま、それがし、スナウトなるもの、石垣の役をば演じます」。
最後の口上でパックが述べるやうに、すべて一夜の夢の物語と思へば、こんなに素敵な夢はない。

一方『あらし』は、最晩年にあたる「浪漫劇時代」の、しかも一番最後の作品。近年の訳では『テンペスト』となつてゐることが多いやうです。この後は『ヘンリー八世』を残すのみですが、これは沙翁の未完原稿を他者が完成させたとも、合作ともいはれてゐて、沙翁の単独執筆としては『あらし』が事実上最後の作品なのださうです。
ミラノ大公だつたプロスペローは、その弟アントーニオーにその地位を奪はれ、追放された身。妖精エーリアルの魔力を借りて、弟とその一味に壮大なる復讐を遂げる、といふ物語。恋愛あり、陰謀ありの世界ですが、すべてはプロスペローの思惑通りになつていきます。これはエーリアルの力が大きい。彼はプロスペローには恩があるため逆らへず、とにかく酷使され、不満たらたらながら抜群の働きを見せるのであります。

結末を知らぬ当時の観客は、これを喜劇と認識せずに、はらはらしながら観劇したのではないでせうか。プロスペローが完全に復讐を遂行してしまへば、とても喜劇にはなりません。そこで彼は、アントーニオーらが十分苦しんだとみて、赦すのであります。そして魔法の杖も捨てて、以後は魔法を封印します。さらにエーリアルも解放してあげるのです。
一応ハピイエンドと申しても良いのですが、どうもアントーニオーの最後の台詞を見ると、心から反省してゐるのかどうか、疑はしい。そこを「エピローグ」で、観客に向けて拍手をもつて我に力を、てな感じで呼びかけます。自分の今後の安寧は、観客に委ねるといふことですかな。

最後に、いつもながら福田恆存氏の翻訳には舌を巻きます。そして充実した解題と中村保男氏の解説。これらを読む為だけでも、新潮文庫版を選択する価値があると申せませう。



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