源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
作家の日記
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作家の日記 1950・6-1952・8

遠藤周作【著】
講談社(講談社文芸文庫)刊
2002(平成14)年2月発行

違ひのわかる男・遠藤周作氏が逝つて丁度20年が経過しました。遠藤氏は1948(昭和23)年に慶大仏文科を卒業後、鎌倉文庫勤務を経て、1950(昭和25)年に留学生としてフランスに渡ります。当時遠藤氏は27歳。本書『作家の日記』は、その3年間に亘る留学生活を記録した日記であります。

まだ作家デビュウ前だから、表題に偽りありではと勘繰る人もゐるかも知れませんが、遠藤氏は在学中から若手の批評家、評論家として注目される存在だつたさうで、既に商業誌にも寄稿してゐたので、全くの的外れではありますまい。当時から、原民喜や山本健吉、堀田善衛らと交友があつたさうです。日記中に原民喜氏の遺書を受け取る場面があり、同時代人だつたのだな、と分かります。もつとも、遠藤氏が小説家を志したのはどうやらこの留学中のやうですが。

随所に若者らしい学習意欲が窺はれ、まあ若干の生意気さも含まれますが、その真摯な向学心には読者も襟を正すでありませう。何だか寝転がりながら読んでは怪しからぬ書物に思へてきます。実際には少し寝床でも読みましたが。
その生活内容は、読書と書簡に随分と時間をかけてゐます。幼時からカトリックの洗礼を受けてゐた氏ですから、キリスト教文学に特化した研究に没頭します。フランソワ・モーリアックやグレアム・グリーンなど、目的意識を持つた読書に勤しむ。
しかし、健康上の不安が迫りくるのです。持病の肺結核が悪化し、つひにはそれが原因で無念の帰国となります......

生活を管理監督するのが自分しかゐない環境で、今週やるべきこと、今日やるべきことを自らに課し、実行へ移す。これは中中大変なことであります。日記によると、食事に招かれたり、突然来客があつたりで、勉強の予定が狂ふこともしばしば。もし自分なら、それらを言ひ訳にして「まあ、明日でいいや」となりさうです。しかし遠藤氏は求道者のごとく書物に向かふのであります。
もつとも、ある女子学生に、なぜフランスに留学に来たのかを問はれると、日本で二人殺して逃げてきたのだと答へるあたり、後年の孤狸庵先生を彷彿とさせる場面もあつて、嬉しくなります。

本書は、なるべく若い人が読むとよろしい。志を持つた人が挫けさうな時に、本書の頁を捲ればきつと初心を思ひ出し、再び歩き出す心持になるでありませう。
しかしながら、わたくしのやうなおやぢが読むと、中中辛い。学生時代にはそれなりの将来の展望を描いてゐた筈ですが、結局は無為なる日々を繰り返し、「青春という宝」を失つてしまふ。シャルル・アズナヴール。ちよつと、本書は眩しすぎるのです......



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