源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
下山事件(シモヤマ・ケース)
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下山事件(シモヤマ・ケース)

森達也【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2006(平成18)年11月発行

1949年7月6日、初代国鉄総裁の下山定則は、国鉄常磐線の北千住-綾瀬間の線路上で轢断死体となつて発見されました。下山事件を説明すれば、たつたこれだけでありますが、現在に至るまで謎に包まれ、多くの捜査関係者やジャアナリストたちがその真相を突き止めんと、血眼になつた事件であります。
さらに続く7月15日には三鷹事件、8月17日に松川事件が相次いで発生しましたが、いづれも未解決のまま現在に至つてをります。これら三事件を、国鉄三大事件などと称し、戦後間もない不安定な世相の中、人々を不安に陥れたさうです。

さて下山事件。本書『下山事件(シモヤマ・ケース)』の著者・森達也氏は、映画監督の井筒和幸氏に「彼」を紹介されたところから、この事件に関つてゆくことになります。その後の森氏の苦難を思へば、井筒監督も罪なことをしました。「彼」とは、親戚が下山事件に関つたといふジャアナリストらしい(最後に正体は明らかにしてゐます)。森氏のほかに、その「彼」、斎藤茂男氏、週刊朝日の諸永裕司氏らが共同でこの事件を追ふ形になりました。しかし、「彼」も諸永氏も「下山病に感染(斎藤氏)」してしまひ、森氏を取り巻く雰囲気は俄かにきな臭くなつて参りました......これが、後に捏造騒ぎなどの問題の遠因になるのでせう。

森氏は映像(ドキュメンタリー)が本職のせいか、その著書も一般のノンフィクションと違ひ、時系列で事件を再現する形式ではありません。取材対象を詳しく描写し、その息遣ひまで伝へんとするかのやうです。インタヴューする森氏自身の葛藤、逡巡、焦燥といつたものまで隠しません。
読者は、新事実からどのやうな真相究明がなされたかを期待すると、当てが外れるかも知れません。しかし著者は「客観的な事実ではなく、主観的な真実を掴んだという自信がある」さうです。そして下山病のワクチンは見つけたつもりだけれど治すつもりはない、とも。それどころかこのウィルスを撒き散らして、多くの人に感染させたいらしい。迷走する取材活動の中で、最終的に辿り着いた本書の「目的」なのでせう。

今さらながら、発表メディアの影響力いかんで、「ノンフィクション」の内容が如何様にも変化することを、森達也氏から教はつた気分です。



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