源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
731
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731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く

青木冨貴子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2008(平成20)年1月発行

731部隊。第二次大戦中に帝国陸軍が満州にて展開した細菌戦部隊であります。表向きは防疫給水を目的とした研究機関ですが、その内実は生物兵器を開発する組織だといふことです。
創設・指揮したのは陸軍の軍医であつた石井四郎。ノモンハン事件で功績を挙げ、部隊内での地位を向上させたとされる人物であります。

本書『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』は、タイトル通り731部隊と石井四郎の謎に迫つた、青木冨貴子氏によるノンフィクション。『ライカでグッドバイ』の人ですな。
読み始める前は、細菌戦部隊とか人体実験とか、或は人間モルモット(「マルタ」なる符牒で呼称してゐたさうです)だとか、おぞましい話が再現されるかと戦き構へてゐました。しかし著者の狙ひは、違ふところにあつたのです。

石井四郎直筆のノートが二冊見つかつたとの連絡が入り、著者は早速石井の郷里である千葉県芝山町へ向かひます。随分興奮気味であります。ノートを手に入れた時の著者の高揚ぶりが伝はつてくるのです。
何しろ今まで世に出なかつた石井直筆ノートですからねえ。新事実の発見や、これまでの定説を覆す記述とかがあるかも知れぬと思ふだけで、ジャーナリストとしては平静を保つのは難しいのでせう。

二冊のノートは、1945年と1946年のもので、いづれも終戦後のものでした。内容は部隊の後始末に関する件や、いかに証拠隠滅を図るかとか、実に細かい指示が出されてゐたことが分かります。
戦犯を逃れるための工作といふか、駆け引きの様子も窺ふことが出来ます。本来ならかかる非人道的な行為は、真先に罪に問はれるところでせう。

GHQは、石井本人や関係者に対する尋問を繰り返すのですが、捗捗しい結果は得られません。石井の指示による偽証や黙秘に翻弄されてゐました。証言を語る条件として、戦犯としての罪は問はないとの言質を得ます。マッカーサーも、さうまでして細菌兵器のデータが欲しかつたのでせう。
ノートの記述により、石井四郎が戦後如何なる活動をしてゐたかが判明します。経済的に困窮し、売れるものは売りつくして、親戚の生活の安定に心を砕く姿がありました。ここには、あの恐ろしい非人道的な人体実験を指揮した石井とは別の人格があります。
逆に言ふと、平凡な小市民の中にも、環境次第でマッドサイエンティストに変貌してしまふ要素があるといふ事でせうか。
著者の執念の取材が実を結んだ一冊と申せませう。



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