源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
日本近代文学の名作
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日本近代文学の名作

吉本隆明【著】
大井浩一/重里徹也【構成】
新潮社(新潮文庫)刊
2008(平成20)年7月発行


学生の頃、人並みに吉本隆明を幾つか読んでみましたが、さつぱり分かりませんで、これはわたくしの理解力が足りないせいだらうと消沈してをりました。
その後社会人になつて読み返す機会がありましたが、その時は「ああこりや、悪文だな」と考へるやうになつたのです。ファンの方には申し訳ございませんがね。
さういへば西原理恵子さんの漫画で、よしもとばななさんに「お父さんの本はいつごろから読めたか(理解できるやうになつたか、の意)」と問ふたところ、「今でも読めません(理解できません)」と応へたのがありました。

ところが本書『日本近代文学の名作』は、さういふ書物とは成立事情が違ひます。即ち、吉本氏が口頭で語る内容を、毎日新聞社学芸部の大井浩一、重里徹也両氏がまとめたものであります。語り言葉なので、まことに解りやすい。
何でも吉本氏本人の視力が俄かに衰へ、原稿用紙の升目を埋める自信が無かつたとか。それはそれで寂しい話ですな。

近代文学といふことで、二葉亭四迷から太宰治まで、明治~昭和戦前の作家を24名取り上げてゐます。作家及びその作品の選抜については、毎日の二名によるものださうですが、吉本氏の「わがまま」により、一名だけ外したとか。一体誰なのか、気になります。

従つて江戸川乱歩のやうに、「どういう作家なのか、大まともに論じられるほど読んでいない」と告白する箇所もあります。
一方、岡本かの子については、「漱石、鷗外といった男性作家と肩を並べられるほどのものを書いている」と高評価であります。思はず書棚の「岡本かの子集」を取り出したことであるなあ。
また、鷗外の成功の要因として、あくまでも医学者としての本分を忘れず、文学者としては素人の立場を守つた事であらうなどと指摘します。
さらに、芥川龍之介「玄鶴山房」を激賞するかと思へば、ラストで社会主義者の名前がとつてつけたやうに出てくるのを「つまらない」「軽薄なことだ」と断ずる。自由自在であります。

本書は決して「名作案内」ではなく、ある程度名作を読み込んだ人が唸る種類の一冊と申せませう。同時に、構成担当の御両名の力量にも賛辞を贈りたい。
わたくしとしては、「西脇順三郎」を加へていただきたかつた喃。




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