源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
東海道新幹線 車窓からのビジネス「発想術」
東海道新幹線 車窓からのビジネス「発想術」東海道新幹線 車窓からのビジネス「発想術」
(2000/09)
西村 晃

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東海道新幹線 車窓からのビジネス「発想術」
西村晃【著】
東洋経済新報社刊
2000(平成12)年9月発行

先達て参加したイベントで、フォトライターの栗原景氏が「2時間40分で日本が見える~東海道新幹線の車窓の魅力」なるタイトルで講演をされてゐました。なるほど車窓はネタの宝庫。ただ漫然と眺めてゐるだけではもつたいないと感じた次第です。

新幹線で東京-大阪間を往復する人は多いでせうが、忙しい仕事人は車中でもPCを駆使したり、疲労して移動時間を居眠りにあてたりして、あまり車窓に関心を寄せないやうに見えます。窓外を見たつて、仕事には関係ないよとばかりに。
実は新幹線の車窓をテーマにした書物は、案外多いのですが、西村晃氏著『東海道新幹線 車窓からのビジネス「発想術」』は読み物としての楽しさに溢れてゐます。

西村晃氏はその昔テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」でお馴染みになり、その後は名古屋の情報番組でもコメンテイターとして出演してゐたので、愛知県人にも顔見知りの人であります。
なほ水戸黄門の役者は西村晃ですが、こちらはニシムラコウと読む別人。余計なことながら。

西村氏は自ら「新幹線中で生活している」と語るほど新幹線での移動が日常的に多いさうです。睡眠も読書も食事も新幹線の中で不自由せず、それどころか新幹線に乗り込めば「我家に帰つてきた」やうなやすらぎすら覚えるとか。要するに彼はテツなのですな。
本書は一応ビジネス書の括りになつてゐますが、テツが書いたメイニア本の一面も持つてゐます。
即ち。
東京駅での自由席確保法・車内で快適に過ごすには・野立て看板の面白さ・車内販売のお気に入り・「こだま」をあへて選ぶ・新幹線車内を散策・富士の絶景を楽しむ・出張費を浮かせるには・等等等...

そしてタイトル通りの「ビジネス発想術」のヒントも、やや控へ目ながら開陳されてゐます。
つまり、車窓一つとつても、見る人の意識の違ひで、ただの風景になるか貴重な情報源となるか変るといふことでせうね。

ぢやあ、今夜はこれでご無礼します。オヤスミナサイ。

成功は一日で捨て去れ
成功は一日で捨て去れ (新潮文庫)成功は一日で捨て去れ (新潮文庫)
(2012/03/28)
柳井 正

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成功は一日で捨て去れ
柳井正【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2012(平成24)年3月発行


一勝九敗』に続く、ファーストリテイリング(FR)の柳井社長の経営哲学がぎつしり詰まつた一冊であります。
今や世界企業となつたFRに、かつての「ユニクロを展開する」といふ枕詞は不要になりつつありますな。あの錦織圭選手のユニフォームにも燦然とユニクロのロゴが輝いてゐます。

成功は一日で捨て去れ。中中厳しい言葉ではあります。成功の余韻に浸るのは心地良い。まあせめて半日は待つてやるから、一日経てばその手法はもはや通用しない。次なるミッションに挑戦せよ、といふ感じでせうか。

かつてチェーンストアといへば、渥美俊一氏率ゐる「日本リテイリングセンター(JRC)」で鍛へられた企業が中心で、その理論体系は完成された学問のやうにレヴェルの高いものだつたと思ひます。実際にここからダイエーやジャスコ、イトーヨーカ堂といつた日本を代表するチェーンストアが育ちました。、

しかしFRはどちらかといふとJRCとは背を向ける、とまではいはなくても一線を画した運営スタイルでした。ゆゑに、フリースが爆発的に売れた時には、JRC×FRの論争が勃発したことがあります。
JRCの指摘は、FRがチェーンストアの経験法則を無視してゐるといふものでした。まあここでは詳しく述べませんが、『JRC Report No.99 チェーンストアの目指す品質とは』(JRC発行)といふ書物でその全貌を読めます。

たぶん柳井社長としては、まさにその「経験法則」とやらが気に入らなかつたのでせう。それこそ一日で捨て去る対象だつたのかもしれません。確かに失敗もいくつか重ねましたが、ダメなら引く潔さが良い。これも過去の「かうでなくてはいけない」といふ法則に囚われないからでせう。
本書を読んでも、柳井社長は過去の成功よりも、今の会社の問題点の方に頭を悩ませてゐます。カリスマ創業者(柳井社長は二代目ですが、ユニクロを立ち上げたのは本人)が抱へる問題は大体似てゐますね。急成長による大企業病とか、後継者問題とか...

本書には毎年社員宛にメールで送る「念頭挨拶と年度の方針」も掲載されてゐます。強烈ですねえ。しかし企業トップが、自社の方向性を熱く語るのは必要なことだと思ひます。皆が同じベクトルを目指すことができます。
少し大きくなつた中小企業なんかの中途半端なトップは、自分の言動をあまり表明すると安つぽくなるとでも勘違ひしてゐるのか、あへて自分の背中を見せない人も多い。これでは社員は、どちらを向いて仕事をすれば良いのか迷うではありませんか。

東京五輪の開催される2020年、FRグループは売上高五兆円、経常一兆円を目指してゐます。それまで柳井社長が力技で引つ張れるのか、世代交代はうまくいくのか、注目ですな。

では今夜はこれでご無礼します。グンナイ。

「できません」と云うな
「できません」と云うな―オムロン創業者立石一真 (新潮文庫)「できません」と云うな―オムロン創業者立石一真 (新潮文庫)
(2011/03/29)
湯谷 昇羊

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「できません」と云うな―オムロン創業者立石一真
湯谷昇羊【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2011(平成23)年3月発行


「オムロンとわたくし」
健康診断に行くと、毎回言はれることがあります。「血圧が高い。改善せよ」
しかし何となく看過してしまひ、いたづらに時を過ごしてきました。若い頃は、医者からもあまり強く言はれなかつたこともあり、まあ難しく表現すれば愚図愚図してゐたのであります。

ところが年数も経ち、わたくしも目出度く中高年と呼ばれる年頃になりますと、健診も回を重ねるごとに医者からの圧力が強くなつて参りました。今回は特に、怖い女医さん(小保方晴子さんが肌荒れをしたやうな感じ)に「いつ動脈硬化を起こしても不思議はない。一刻も早く病院へ行き、治療を始めよ。自分でも血圧計を買つて、毎日計測するのだ。この数値で、今まで何もしなかつたとは信じ難い。体重も減らせ」とまくしたてられました。

早速近所の病院で薬をもらひ、さらに血圧計を購買するため家電量販店に立ち寄りました。色色種類がありますね。
下は三千円を切るものから、上は二万円近いものまで価格帯も広い。さすがに二千円台は計測結果の信憑性に不安がありますので、六千円クラスのものを選びました。メーカーはやはりオムロンであります。

半信半疑で飲み始めた薬ですが、これが効果があるのですね。毎日朝晩計測するのですが、たちまち数値が改善されてゆきます。かうなると計測が愉しくなり、必要以上にオムロンの世話になつてゐます。座右にオムロン。



『「できません」と云うな』は、オムロン創業者である立石一真の言葉。立石電機の総帥として名前は聞いてゐましたが、かくもスゴイ人物であるとは、本書を読むまで知りませんでした。
「ズボン・プレス」に始まり、無接点スイッチ、マイクロスイッチ、電子信号機、自動食券販売機、駅の自動改札システム、電動義手、電子医療機器...大手でもまだやらなかつた事業を、まだ中小メーカーだつた立石電機が次々と実現してゆくさまは、感動すら覚えるのであります。

立石一真は、会社の利益を第一に考へなかつた。社会に貢献できる企業を目指したのであります。言ふは易いが、中中難しい。大企業となつた会社が、利益を社会へ還元するといふケースと違ひます。倒産の危機も迎へるほどの中小メーカー時代からそれを実行してゐるのですから。
ゆゑに、どんな注文も断らなかつた。大手企業もまだ出来ないものでも、非常識なほど短い納期でも、まづは「やつてみませう」とばかりに引き受ける。お陰で技術陣は大変だつたらうが、その分鍛へられたことでせう。

松下幸之助や本田宗一郎に匹敵する技術系経営者と言はれますが、本書を読めばそれがすんなりと納得できるでせう。立石一真の生き方を多くの人に知らせたいといふ著者の望みを十二分に叶へる一冊と申せませう。
ぢや、さよなら。

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた
グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた (新潮文庫)グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた (新潮文庫)
(2013/03/28)
辻野 晃一郎

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グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた
辻野晃一郎【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2013(平成25)年3月発行


書名を見て、次のやうに連想しました。
「ソニーの凋落が喧伝されて久しい。かつては世界をリードした憧れの企業だが、中中苦境から脱せぬやうである。しかし、今をときめくグーグルもソニーから学んで大きくなつたのである。俺(著者)がソニーに在籍してゐた頃の話を聞かせてあげるよ。ここから復活のヒントでも掴んでくれたら嬉しいなあ」
きつと著者はかういふ感じで執筆したのではないかと。

一読したら、内容は概ね予想通りでした。
22年間勤めたソニー。ヒット商品の開発も手がけた著者ですが、硬直してしまつた組織の壁に阻まれ、自らの力量を示せない環境に負けてしまふのであります。
ソニーを退社し、ハローワークに通う日日。ところで著者もつぶやいてゐますが、このネーミングは何でせうね、今さらですが。
青島幸男氏が東京都知事の時、議会で「ハローワークとは何か」問ふて莫迦にされましたが、「公共職業安定所」なら当然知つてゐるわけです。

それはともかく、著者は新しい会社を立ち上げます。その途端、スカウト会社から「グーグル」へのヘッドハンティングの電話が! デキる人は違ふねえ。
結果としてグーグル日本法人の社長を3年間勤めて退社します。その後は「アレックス株式会社」を創業し、現在に至るらしい。
かうして見ると、本人の才能努力はもちろん有るにしても、順調な人生ではありませんか。過去の成功体験はいらんと言ひながら、ソニー時代の「コクーン」「スゴ録」での実績をやたらと強調するのも微笑ましいですな。いや、別段皮肉つてゐるのではないよ。

文庫カヴァーの宣伝文には、「読む者を勇気づける」とありますが、むしろ自信喪失させる可能性がありますな。読み物としては面白い一冊なので、余計な効用を期待しない方が良いですね。自分を重ね合せて読まないやうにしませう。

さて夜も更けてまゐりました。ではこのあたりでご無礼します。

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儲けすぎた男
儲けすぎた男 小説・安田善次郎 (文春文庫)儲けすぎた男 小説・安田善次郎 (文春文庫)
(2013/09/03)
渡辺 房男

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儲けすぎた男 小説・安田善次郎
渡辺房男【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2013(平成25)年9月発行


東京大学安田講堂などに名を残す安田善次郎。安田財閥を一代で築いた立志伝中の人であります。
わたくしにとつては、JR鶴見線の安善駅(安善町一丁目)の由来となつた人としての印象が強かつた。否、殆どそのイメエヂ。

ところでこの鶴見線とは、埋立地に新たに敷設した鉄道のため、その地名を付けるにあたり、関りの強い実業家や企業の名前から駅名(地名)が付けられてゐます。たとへば浅野総一郎(浅野駅)、大川平三郎(大川駅)、昭和電工(昭和駅)など。
まるで関係ないけれど、「大川平八郎」は、昔の東宝専属俳優であります。またの名を「ヘンリー大川」。大川平三郎とは、特に血縁関係はないみたいですね。

さて安田善次郎は元元富山藩の武家の出自でありますが、武家といいながら実態は経済的に困窮し、田畑を耕し農作物を売り歩く毎日だつたさうな。
かかる生活では将来の展望が見えてこないといふことで、善次郎は単身江戸へ出ます。

両替商を始めた善次郎。幕末の混乱期から明治維新の不安定な時期は、貨幣の価値もあやふやになり、明日も知れぬ毎日であります。同業者があたふたする中、善次郎は大きな賭けに出るのでした...

安田善次郎といへば、巨額の財産を得ながらそれを社会に還元しない守銭奴との評も聞くのでありますが、本書を読むと、必ずしもさうではないことが分かります。本人は「陰徳」を心がけてゐたさうなので、中中表面に出なかつたのでせう。実際、近年は安田善次郎再評価が進んでゐるといふことです。

『儲けすぎた男』は、小説としては些か華が足りないやうな気がしますが、安田財閥の興亡を俯瞰するのに恰好の一冊と申せませう。
通勤などで安善駅を利用する皆様も、たまには安田善次郎に思ひを馳せていただきたいと愚考するものであります。

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